ドイツと日本 林業事情の違い

林業に関すること森林政策に関する雑記
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日本において、林業を志す若者は決して多いとは言えない。
いや、少数派であると言ってもいい。

しかし海外に目を向けると、ドイツでは「子どもたちがあこがれる職業」と評する識者もいる。両国の林業事情の違いをまとめてみた。

ドイツの森林面積は日本の半分

日本とドイツの国土面積はほぼ同じだが、森林面積は日本の方が広く2500万haあり、森林率は67%。一方のドイツは日本の半分以下の1100万haで森林率は32%。

しかし、年間の木材生産量は日本の約3000万㎥に対してドイツはその倍の約6000万㎥あるという。
さらに、林業就業者数も大きく異なる。統計の取り方が違うため一概には言えないが、日本の林業就業者数は約4万5千人なのに対して、ドイツは自動車産業の2倍近い130万人というデータもある。

皆伐は禁止

2008年に農林中央金庫が開催した「森林組合トップセミナー」という催しの議事録がネット上で公開されている。
この中で講師の池田憲昭氏(ドイツ在住ジャーナリスト)が興味深い指摘をしている。

以下要約すると、ドイツでは樹木を一斉に刈り取る皆伐は基本的に禁止されている。なぜかというと産業革命(18世紀後期~19世紀)の時代に燃料として多くの樹木が伐採され、森林が荒廃した。この反省から、森林の伐採は樹木が成長した分だけ収穫する循環型の手法に転換したという。

一方の日本は、拡大造林期(1960年代以降)に植えられたスギやヒノキが「伐期」を迎えたとされ、人工林を皆伐した後にまた苗木を植えて育てるのが「バランスのとれた状態」とされている。(イラスト参照)

林野庁資料から抜粋

 

こうしてみると、皆伐が基本的に禁止されているドイツとは森林経営の考え方に大きな隔たりがある。皆伐は森林環境を激変させるため土壌やそこに暮らす生物への影響も多大だが、これが「バランスのとれた状態」と言えるのか、疑問に思う。

さらに皆伐した跡地に植林した際、苗木が雑草木の成長に負けないように雑草を刈り取る「下刈り」の作業が過酷を極める。
「下刈り」は雑草が生い茂る真夏に行われるためとにかく暑い。さらにスズメバチやヘビなどの害虫に遭遇する恐れもある。
そうして育てられた苗木が「伐期」を迎えるまで数十年間の時間を要するのである。

「3K職業」から「あこがれの職業」に?

日本の半分以下の森林面積しかないドイツでは皆伐を行わずに日本の2倍の木材生産量を誇る。日本ほど急峻な山はあまりないとされ、大きな林業機械が入りやすいというメリットもあるかもしれないがその森林経営の考え方は大いに参考になる。

ドイツで林業を学んだ元教員の岸修司氏は著書「ドイツ林業と日本の森林」のなかで、ドイツでは森林官が「子どもたちがあこがれる職業」として紹介している。
そして、「(日本では)現状の3K職業からどのように変われば若者があこがれて集まるのかを林業関係者や現場の経営者は真剣に考える必要があります」と投げかけている。

森林は国土の最もよい装飾である」とはドイツに残る言葉だ。

森林が国土のおよそ7割を占める日本において、その装飾を担う仕事が「3K(きつい、汚い、危険)」であり続けるのは寂しい。

ドイツでは林業のターニングポイントとなった産業革命から約200年が過ぎて今の形ができあがった。日本の現行林業のスタートを戦後あるいは拡大造林期と考えると、まだその歴史は浅い。少しずつ時間をかけて、いつしか林業が子どもたちの「あこがれの職業」となる日が訪れるといいのだが…。

                                           

コメント

  1. 橋本武 より:

    日本の林業就業者数は正しくは林業従事者数です
    ドイツの林業就業者数は、林業クラスターの総数なのでこちらも間違っています
    ご確認ください

    • yama-mori-journal より:

      コメントありがとうございました。
      このデータを紹介する前段で「統計の取り方が違うため一概には言えないが」と記していますのであくまで参考情報と捉えていただけたらと思います。
      日本の「林業クラスター」の総数が何人かというデータを調べることができていないのは確かにその通りでございます。

  2. 橋本武 より:

    平成27年度時点の日本の林業就業者数は約63,000人、林業従事者数は約45,000人で2006年のドイツの林業従業者数が約44,000人でそこの比較であれば「統計の取り方が違うため一概には言えないが」というのもわかりますが、2005年のドイツの森林・木材産業クラスター、つまり製材や製紙業などを含めた従業者数132万人と並べるのはあまりにもナンセンスなのではないでしょうか

    それに仮にドイツの林業労働者数が132万人もいたならば6000万㎥しか生産できてないのはあまりにも生産性が低すぎるので普通に考えれば違和感を抱く人が多いと思いますよ

    • yama-mori-journal より:

      「ナンセンス」な記事で失礼しました。
      「2006年のドイツの林業従業者数が約44,000人」というデータのソースを教えていただけないでしょうか。
      この数字が知りたくて調べたのですがたどり着かずでした…。

  3. 橋本武 より:

    https://www.nikkeicho.or.jp/new_wp/wp-content/uploads/shinrin_takagi_final_overseareview.pdfで見ることができます

    ドイツの森林・木材産業クラスターについて広く注目されることになったのは民主党政権の森林・林業再生プランがきっかけだったと記憶してます
    当時資料のなかに内訳が書いてあったので資料をきちんと読んでいた人はドイツの林業者数についても見ていたと思いますが、きちんと見ないでドイツの林業者数=100万人以上と勘違いしている人が多く見られます
    木材生産量から考えたり近隣国の林業者数を見ればそれが間違いであることくらいわかると思いますが

    森林林業再生プランやその前身の森と里の再生プラン、あるいはその元となった富士通総研のレポートも見ましたがすでにデータは見つけることができませんでしたのでここに2005年のドイツの森林・木材産業クラスターの内訳を書いておきます

    産業 雇用者数
    林業 98009
    製材・合板 40978
    家具など 182538
    工務店など 452658
    製紙業 139563
    出版印刷業 329592
    木材流通 35500
    林業関係機械製造業 45485
    計  1324323
    林業の雇用者数が上の約44,000人と大きく違うのは統計をとった人の違いなのか手法の違いなのかまでは分かりません
    日本でもどこまでが林業者数と捉えていいのかは判断が難しいところだと思います
    私の感覚からすると日本の林業者数は10万人いると思います

    日本の林業がドイツの林業から学ぶことは多いと思いますが、比較するのであればなるべく正しい事実に基づいて行ってください
    また、たぶん誰もが日本の森林・木材産業クラスターについて実態の把握をせずにドイツを礼賛してしまっているような気がします
    ジャーナリストと名乗るのであれば日本の森林・木材産業クラスターについても実態把握をしていただきたいと思います

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