日本の森林政策に関する諮問機関に「林政審議会」という組織がある。
11月にその委員の公募があったため応募してみたが、予想通り(?)の「選考外」に・・・。
応募の際、「森林資源の適切な管理と森林・林業・木材産業によるグリーン成長の実現のための課題と対応について」という難解なテーマに沿って1200字程度の「意見、提言」の提出を求められた。
筆者は「大規模皆伐の規制と従事者の所得向上を」というタイトルで持論を展開した。折角なので、「選考外」になってしまった「意見、提言」を以下に貼り付けておこう。
大規模皆伐の規制と従事者の所得向上を
「林政審議会」は森林・林業基本計画の策定など、この国の森林政策の方向性を定める非常に重要な組織だと考える。今回、林野庁林政課から示されたテーマに沿って持論を述べていく。
まず「森林資源の適切な管理」について。林野庁の資料でよく目にするのが図1のようなイラストだ。スギ、ヒノキといった針葉樹を植え、下刈りや間伐を行った後に皆伐をしてまた同一樹種を植え直すこのサイクルを「バランスのとれた状態」と説明している。
「森林資源の適切な管理」を目指すのであれば、このイラストを今後使用しないことから始めなければならない。
スギなどの単一樹種で形成された森林は生物多様性の観点から見て「バランスのとれた状態」とは言えない。このことは「森林総合研究所」が発出した「スギ林が増えると昆虫の多様性は減るか?」というレポートにもその弊害が記述されている。また、皆伐施業は山の姿を一変させ、動物の住みかを奪うだけでなく、水源涵養機能を低下させ災害リスクの増加にもつながる。さらには皆伐後に再造林されないという問題も表出している。
ドイツなどでは大面積の皆伐は既に禁止されている。生物多様性を尊重し、災害リスクを低減させるためにも、日本も皆伐は1㏊程度の小面積に限定させる方向に進むべきだと考える。そして、人工林の施業は間伐あるいは択伐とし、林床に光りを当てて実生で生える広葉樹の成長を促し、足りなければ補植して針広混交林へ移行させるべきではないだろうか。つまり「法正林思想」から「恒続林思想」への転換が必要になってくる。
次に「森林・林業・木材産業によるグリーン成長の実現」について。近年は林業機械の大型化などにより、木材自給率は最低だった2002年と比べると倍増した。しかし、林業従事者の給与が倍増したわけではない。むしろ彼らの平均給与は全産業平均よりも低いままだ。林業は全産業の中で最も労災発生率が高い危険な仕事なのに低賃金で働かなければならないのが現状だ。
私は以前勤めていた高知新聞社在籍中にいわゆる「自伐型林業」に可能性を感じて2019年10月に同社を休職し、「自伐型林業」実践者に弟子入りした。だが、その現実の厳しさを目の当たりにして結局同社を退職して神奈川県にUターン。現在は県西部の山北町で暮らしながら地域住民とともに山づくりに取り組んでいる。
山の仕事は危険で体力も消耗するが、自然と向き合い、困難を乗り越えることで己を成長させてくれる尊い仕事でもある。
これらの経験を積んだ者として林業に従事する人の「経済的社会的地位の向上」が必要だと考えている。まずは森林環境譲与税を活用して「斜面危険労働手当」といった形で彼らに支給し、所得の向上に資することができないか提案したい。
いくら「グリーン成長」を掲げたとしても、現場で汗を流す従事者が報われない産業構造のままでは次世代を担う若者への訴求力は乏しく、空虚なものとなってしまうからだ。
以上が林野庁に提出した文書。
現職の「林政審議会」の委員さんには、山間地域が少しでも豊かになる森林政策を示していただきたいが、森林ジャーナリストの田中淳夫さんのブログを読む限り明るい展望は持てそうにない・・・。
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