3月18日開催の神奈川県議会環境農政常任委員会(古賀照基委員長・立憲民主党)は、ヤマモリジャーナルが提出した県の森林整備に関する補助制度の改正を求める陳情について採決を行い、「不了承」とした。
陳情採決の前に同委員会が行った聞き取りで、所管課の水源環境保全課長は事実誤認あるいは故意に事実に基づかない発言をするなどし、正確な情報を同委員会委員に伝えなかった疑いがある。
このためヤマモリジャーナルは4月1日、県議会議長に対して「令和6年3月18日開催の県議会環境農政常任委員会における水源環境保全課長の答弁修正を求める要望書」を提出した。
以下に要望書の全文を公開する。
令和6年4月1日
神奈川県議会議長
加藤元弥殿
令和6年3月18日開催の県議会環境農政常任委員会における水源環境保全課長の答弁修正を求める要望書
1,要望の要旨
県議会環境農政委員会は令和6年3月18日開催の委員会で「『神奈川県協力協約推進事業』の『事後申請方式』導入と、『県協力協約推進事業実施要綱』の改定を求める陳情」の採決直前、所管課である水源環境保全課に対して陳情内容に関する聞き取りを行った。
その際、同課長は事実誤認あるいは故意に事実に基づかない発言をするなどし、正確な情報を同委員会委員に伝えなかった疑いがある。
この行為は、県民の代表者が集う神奈川県議会の品位を貶めるものであり、許されるものではない。また、同委員会の議事録は県民共有の財産である公文書である。このままでは誤った内容が議事録に残されてしまうため、表記の通り同課長の答弁修正を求める。
2,要望の理由
この要望書提出者は、上記陳情を提出した者であり、3月18日開催の同委員会を傍聴した。同委員会における水源環境保全課長の事実誤認あるいは事実に基づかない内容の答弁は以下の3点になる。
① 同委員会委員が水源環境保全課長に対して、陳情に記載された「事後申請方式」が認められている「高知県と東京都の補助事業」について質問したところ、同課長は両都県の補助事業について「全国一律の運用で行っている造林補助事業の枠組みの中で行われている単独事業。国庫に加えて県が財源負担している」と答弁した。この答弁は事実誤認あるいは事実を歪めた内容である。
同課長の答弁について、高知県木材増産推進課に問い合わせたところ、神奈川県の担当者から連絡があったことを認めた上で「補助メニューの一部が造林補助の上乗せだと説明したが、全てがそうだという話はしていない」と回答した。このことから水源環境保全課長の発言は事実に基づいていないことが分かった。高知県木材増産推進課によると、同県の補助事業には造林補助への上乗せという枠組み以外にも、造林補助の対象にならない森林整備に関して県独自の補助事業を設け「事後申請方式」を認めている。
また、東京都森林事務所にも問い合わせたところ、東京都も高知県と同様に造林補助の上乗せのほか、造林補助の対象とならない森林整備への「都独自の補助金がある」ことを認め、神奈川県水源環境保全課の答弁が事実に沿っていないことが分かった。
そもそも、高知県も東京都もそれぞれに補助金交付に関する「要綱」を作成した上で財源を確保しているのであり、神奈川県と何ら変わりない「独自の補助事業」であり、水源環境保全課長の発言の「全国一律の運用で行っている造林補助事業の枠組みの中で行われている単独事業」という説明は明らかに事実に反している。
同課長は、神奈川県の単独事業である「協力協約推進事業」が県の「独自の補助事業」であり、同県の一般的な補助事業と同様に補助金交付決定後の事業着手という「原則」が適用されることを強調するために、このように事実に基づかない発言をした可能性が極めて高い。
言わずもがな、高知県でも東京都でも一般的な補助事業は、補助金の交付決定後の事業着手の「原則」は当然だが、森林整備に関する補助事業は林業作業が持つ特殊性から国の造林補助と同様に「事後申請方式」が認められていることは同委員会に提出した陳情に記した通りである。
② 国の造林補助が「事後申請方式」を認めている理由について水源環境保全課長は「造林補助事業は全国的に補助交付件数が極めて多くて交付決定が遅れる恐れがあることなどから、林野庁がその運用を通知して例外的な取り扱いとしている」と発言した。補助交付件数の多さも「事後申請方式」が認められている理由の一つだが、これが全てではない。
神奈川県森林再生課は「造林補助」が「事後申請方式」を認めている理由について、交付件数の多さに加えて「自然を相手にしている事業であることから、他の公共事業のように、予め確度の高い設計を行うことが困難であることも理由」(添付資料)としている。
林野庁企画課も同様に「森林の作業には季節性の部分があり、きちんと積算ができない側面がある。天候や山の条件などいろいろな諸事情があって事後申請方式を認めている」とし、自然を相手に仕事をする林業の特殊性から「事後申請方式」が認められている旨説明している。
神奈川県の「協力協約」も、国の「造林補助」も対象は「森林整備」という自然相手の仕事であるにもかかわらず、「協力協約」は「事後申請方式」を認めず、「造林補助」は認めているというダブルスタンダードの状況が続いている。
だが、水源環境保全課長はこの点を一切説明せず、あえて情報を切り取った上で同委員会に対して説明した疑義がある。
③ 同委員会委員から「これまで市町村などから事後申請方式への変更への要望は出ているのか」と問われた水源環境保全課長は「これまで協力協約推進事業は事業の実施に当たって市町村や林業事業体から事後申請方式への変更についての要望はない」と答えたが、これも事実に反する。令和5年県議会第3回定例会には「神奈川県の森林整備に関する補助制度のダブルスタンダード解消と、『県協力協約推進事業実施要綱』改定を求める陳情」(賛同者6人)が提出され、事業者からの制度変更を求める要望は過去に出されている。
同委員会は令和5年10月、上記陳情を採決する際に委員の1人が「陳情に至った状況は解消されている」旨発言し「不了承」としたが、陳情提出者が水源環境保全課に問い合わせたところ「陳情に至った状況」が解消されていないことが判明したため、再度の陳情提出に至ったのである。
以上のように、水源環境保全課長は同委員の聞き取りに対して、事実誤認あるいは事実に基づかいない説明(①、③)や情報の切り取り(②)をするなどして十分な説明を行わなかった。
このような同課長の行為は「常に県政の課題を把握し、公益性の見地から、県全体を見据え、県民の多様な意見を県政に反映させること」を使命とする県議会の品位を著しく貶める行為に他ならず、許されるものではない。
また、同委員会の議事録は県民の貴重な財産である公文書であるにもかかわらず、このような誤った情報が記載されることは公益性の観点から許容できない。
このため、同課長の答弁の修正案を以下に記載する。
【修正案】
①に示した高知県と東京都の補助事業に関する答弁にある「全国一律の運用で行っている造林補助事業の枠組みの中で行われている単独事業。国庫に加えて県が財源負担している事業」は誤りであるため、「高知県と東京都の補助事業は両都県独自の制度であり、その中に造林補助に上乗せするものもあるが、造林補助では対象とならない森林整備作業への補助も備えた事業で、神奈川県と同様に独自の事業」に修正する。
②に示した「造林補助事業は全国的に補助交付件数が極めて多くて交付決定が遅れる恐れがあることなどから、林野庁がその運用を通知して例外的な取り扱いとしている」は情報の切り取りであるため、「自然を相手にしている事業であることから、他の公共事業のように、予め確度の高い設計を行うことが困難であることも理由」の文言を加える。
③に示した「これまで協力協約推進事業は事業の実施に当たって市町村や林業事業体から事後申請方式への変更などの要望はない」は事実に基づいていないので「令和5年県議会第3回定例会に制度改正を求める陳情が提出されたが、環境農政常任委員会は『不了承』としている」に修正する。
以上
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