神奈川県全市町村/森林環境譲与税配分試算資料を入手/山北町は2025年に累計1億円超/県内町村では最高額

山北町情報森林政策に関する雑記情報
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ヤマモリジャーナルはこのほど、神奈川県に対して情報開示請求を行い、2019年度から始まった森林環境譲与税の県内各市町村の配分額と、今後の配分予定が分かる試算資料を入手した。
同譲与税は2020年度の制度変更により配分額が増加した。このため2025年度には山北町への配分は累計1億円を超える見通しであることが分かった。県内の町村の中では最高額となる。

2024年度からフルスペック

今回の情報開示請求で得られた主な資料は以下の2点。

制度変更前の試算資料

制度変更後の試算資料

森林環境譲与税は、森林整備や林業の担い手確保のほか、公共施設の木造化などに幅広く活用できる。配分額は各自治体の①人口②私有林人工林面積③林業就業者数の三つの数値を基に算出される。

制度開始当初は、譲与額が段階的に引き上げられ、2033年度以降に総額600億円の譲与税が毎年配分される予定だった。しかし、2020年度に財源確保の手法が変更されて譲与額の引き上げスピードが加速し、2024年度からフルスペックの600億円が全国の自治体に振り分けられることになった。
その詳しい経緯は日本唯一の森林ジャーナリスト・田中淳夫氏が既に記事にしている。

開示請求で得られた資料を基に、神奈川県内各市町村の配分額を以下の表にまとめた。人口約370万人と県内最多の横浜市は譲与額がずば抜けて多く、2024年度以降は毎年4億7千万円余りが配分される。次いで人口が多い川崎市や相模原市などが続く。

山北町の人口は減少が止まらず約9600人(県推計)と県内で4番目に少ないが、私有林人工林面積が2番目に広いため、県内の町村の中では最も配分額が多い(全体では13番目)。配分額の累計は2025年度には1億円を突破する見通しになっている。

(単位:万円)
    2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025 合計
1 横浜市 14209 30195 30194 39074 39074 47955 47955 248656
2 川崎市 5680 12071 12071 15621 15621 19172 19172 99408
3 相模原市 3509 7457 7457 9650 9650 11844 11844 61411
4 藤沢市 1707 3629 3629 4696 4696 5763 5763 29883
5 横須賀市 1555 3305 3306 4278 4278 5250 5250 27222
6 小田原市 1121 2384 2384 3085 3085 3787 3787 19633
7 平塚市 1097 2331 2332 3018 3018 3703 3703 19202
8 厚木市 1087 2310 2310 2990 2990 3669 3669 19025
9 秦野市 1027 2183 2183 2825 2825 3467 3467 17977
10 茅ヶ崎市 911 1936 1936 2505 2505 3075 3075 15943
11 大和市 895 1903 1904 2464 2464 3024 3024 15678
12 鎌倉市 673 1430 1431 1851 1851 2272 2272 11780
13 山北町 641 1364 1364 1765 1765 2166 2166 11231
14 伊勢原市 512 1088 1088 1408 1408 1729 1729 8962
15 海老名市 497 1056 1056 1367 1367 1677 1677 8697
16 座間市 486 1034 1035 1339 1339 1643 1643 8519
17 南足柄市 447 951 951 1231 1231 1511 1511 7833
18 清川村 383 815 815 1055 1055 1295 1295 6713
19 綾瀬市 328 697 698 903 903 1108 1108 5745
20 愛川町 285 606 607 785 785 964 964 4996
21 逗子市 236 502 503 651 651 798 798 4139
22 湯河原町 235 499 500 647 647 794 794 4116
23 松田町 193 410 410 531 531 652 652 3379
24 箱根町 192 408 409 529 529 649 649 3365
25 寒川町 181 385 385 499 499 612 612 3173
26 三浦市 171 365 365 473 473 580 580 3007
27 葉山町 138 295 295 382 382 469 469 2430
28 大磯町 128 273 274 354 354 435 435 2253
29 二宮町 118 251 252 326 326 400 400 2073
30 開成町 109 232 232 301 301 369 369 1913
31 大井町 78 167 168 217 217 266 266 1379
32 中井町 57 122 123 159 159 195 195 1010
33 真鶴町 38 81 82 106 106 130 130 673
(※2019、2020年分は実際の譲与額)

使途は?

森林面積が少ない横浜市などの都市部では、譲与税を活用して学校などの公共施設の木造化を進めることでいわゆる「川下」の拡大が期待される。

一方の山間部では、譲与税を木材搬出や山林の所有者探しなどの作業に充てる自治体が目立つ。
だがこれらの譲与税の使途に目新しさを感じない。

というのもこれまでの林野行政は林業の「成長産業化」を掲げて山から多くの木々を切り出すように「川上」側に働きかけてきた。
その結果、木材の供給量は確かに増えたが、山間地域の暮らしが良くなったのか甚だ疑問であるし、「地方創生」の号令も虚しく聞こえる。

筆者は、林業従事者の社会的経済的地位の向上なくして山間地域の未来は描けないという立場である。

このため以前、森林環境譲与税の使い道としてキコリに【斜面危険労働手当】(仮称)として支給できないか?という提案をした。

その具体的な内容は上記記事に書いたが、例えば、1立米の木材を搬出した林業従事者に対して5千円の手当を支給するという内容(乱伐を防ぐため、支給の上限を設定する)。つまり、譲与税を「人」に付与するという提案だ。

林業は薄給の上に危険な仕事だ。林野庁によると、林業従事者の年間平均給与は343万円。全産業の平均値は432万円というから決して高くはなく、むしろ低い部類。
にもかからわらず、労働者1千人当たりの労災事故発生率は20,8人(2019年時)で全産業の中でずば抜けて高いことは以前の記事(自衛官よりも亡くなっている林業従事者)で紹介した。

このような状況下で仕事をしている林業従事者の社会的経済的地位向上のためにも、「斜面危険労働手当」の議論の余地はないだろうか。
林業従事者個人に手当として支給することによって、彼らの仕事が「公共性の高いものだ」という自覚にもつながり、担い手育成の一助にもなると思う。

また、林業の「成長産業化」を目的として、これまでも国、県、市町村からは森林の整備や機械の購入などに多くの補助金が支給されてきた。これらの補助金と譲与税の棲み分けが難しくなり、譲与税をただ基金(貯金)に積み上げることだけは最も避けてもらいたい。

町面積の多くを森林に囲まれている山北町。神奈川県随一の山間地域は今後どのような譲与税の活用策を世間に示せるのか。間近で見ていこう。

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