ヤマモリジャーナルは5月3日、神奈川県議会環境農政常任委員会で水源環境保全課長が虚偽答弁を行ったとして、同課長に懲戒処分を課すよう求める文書を県人事課に送付した。
しかし、同課はこの文書に対応せず、県環境農政局総務室企画調整担当課長と同室管理担当課長が5月14日付で回答した。
両課長の回答文は、ヤマモリジャーナルが問題を指摘した3点の答弁を列挙した上で「事実誤認等はありませんでした」と結論づけた。
だがこの回答を読む限り、奇しくも虚偽答弁を認める内容になっており、苦しい言い分がツラツラと書かれている。
“珍回答”を見ていこう。
虚偽答弁認める⁉️
3月18日開催の県議会環境農政常任委員会で水源環境保全課長は、森林整備完了後の補助金申請を認めるいわゆる「事後申請方式」を採用する高知県や東京都の補助事業について「全国⼀律の運⽤で⾏っている造林補助事業の枠組みの中で⾏われている単独事業。国庫に加えて県が財源負担している」と答弁した。
一方、5月14日付の回答文書では「⾼知県と東京都は、国庫補助の対象とならない森林整備について、都県予算を財源として、国庫補助を伴わないいわゆる単独事業としての造林補助事業も実施」として同課長の虚偽答弁を認めた。しかし、この文書の後段では両都県の補助事業について「あくまでも国の定めた造林補助事業のスキームの中で⾏われている事業であり、答弁内容に事実誤認等はありません」などと説明した。
なんとも苦し紛れ。
残念ながら、文書後段の説明は事実に則していない。
高知県の場合、「高知県みどりの環境整備支援事業」という補助制度を作った上で、独自の要綱を策定し、国の「造林補助事業」では補助の対象にならない森林整備に対しても補助を行い、「事後申請方式」を認めている。つまり「国の定めた造林補助事業のスキームの中で行われている事業」ではなく、「国の定めた造林補助事業のスキームの外」にある森林整備事業でも「事後申請方式」を認めているのである。
また、東京都の場合は「東京都造林補助事業」という補助制度を独自に創設している。補助事業の名称が国の「造林補助」と重複しているが、独自の要綱を策定し、国の「造林補助事業」では補助の対象にならない森林整備に対しても補助を行い、「事後申請方式」を認めているのである。こちらも「国の定めた造林補助事業のスキームの中で行われている事業」ではなく、「国の定めた造林補助事業のスキームの外」にある森林整備事業でも「事後申請方式」を認めている。
つまり5月14日付の文書では同課長の虚偽答弁を隠すため、さらに虚偽の説明を繰り返すという目も当てられない文書を作成してしまっているのである。
情報の切り取りも認めた…
また、水源環境保全課長は国の補助事業である「造林補助」が「事後申請⽅式」を認めている理由について「造林補助事業は全国的に補助交付件数が極めて多くて交付決定が遅れる恐れがあることなどから、林野庁がその運⽤を通知して例外的な取り扱いとしている」と答弁した。
この点、ヤマモリジャーナルは同課長の「情報の切り取り」を指摘した。
そして、5月14日付の回答文ではこの「情報の切り取り」を認めてしまった。
以下がその文書。
「造林補助事業は、予め確度の⾼い設計を⾏うことが困難である中、全国的に補助交付件数が極めて多く、通常の⼿続⽅法による対応を⾏えば、変更交付決定⼿続きが頻発し、事務量が膨⼤となることが⾒込まれます。このため、現⾏の事務費と⼈員体制では対応が極めて困難となることから、林野庁により事後申請⽅式が例外的に認められているものであり、答弁内容に事実誤認等はありません」
この文書では、同課長が森林整備の特殊事情である「予め確度の⾼い設計を⾏うことが困難である」という部分を切り取ったことを認めている。
国の造林補助や、他都県の森林整備補助事業が「事後申請方式」を認めている要諦は、同課長が情報を隠した「予め確度の⾼い設計を⾏うことが困難である」という部分にある。補助金の交付件数の寡多で「事後申請方式」を認めてしまっては、森林整備以外にも数多ある補助制度が「事後申請方式」を取り入れなければならなくなる。このため交付件数の数はさほど重要ではない。
「林業」という職種は全産業の中で最も労災発生率が高く、自然相手の仕事であるため作業の進捗は天候にも左右される。安全に森林整備作業を進めるには工期に余裕を持ったスケジュール策定が欠かせない。このため、国の造林補助は「事後申請方式」を認め、他都県もそれに倣った形で制度を運用しているのだ。
それにもかかわらず、神奈川県では林業の「予め確度の⾼い設計を⾏うことが困難」という特殊性を一切考慮せずに漫然と制度を運用しているのだ。
さらに、国の「造林補助」よりも県の「協力協約推進事業」の方が補助率が高くなるため、山間地域で雇用を生もうとすれば必然的に「協力協約」を活用したくなるが、神奈川県では「事後申請方式」を取り入れていないため、制度の使い勝手が悪く申請件数が少ない可能性すらある。
「造林補助」を活用しようが「協力協約」を活用しようが、林業従事者が行う「森林整備」という行為は変わらないにもかかわらず、一方は「事後申請方式」を認め、もう一方は認めないというダブルスタンダードの状況が神奈川県では長年続いているのだ。
もはや、理解不能
3月18日開催の県議会環境農政常任委員会で委員から「これまで市町村などから事後申請⽅式への変更への要望は出ているのか」と問われた⽔源環境保全課⻑は「これまで協⼒協約推進事業は事業の実施に当たって市町村や林業事業体から事後申請⽅式への変更についての要望はない」と答えた。
この答弁は事実と異なる。
2023年県議会第3回定例会には「神奈川県の森林整備に関する補助制度のダブルスタンダード解消と、『県協力協約推進事業実施要綱』改定を求める陳情」(賛同者6人)が提出され、事業者からの制度変更を求める要望は過去に出されているのだ。
同委員会は同年10月、上記陳情を採決する際に委員の1人が「陳情に至った状況は解消されている」旨発言し「不了承」としたが、ヤマモリジャーナルが水源環境保全課に問い合わせたところ「陳情に至った状況」が解消されていないことが判明したため、再度の陳情提出に至ったのである。
ところが、5月14日付の文書には「各地域県政総合センターに確認したところ、市町村や林業事業体から、事後申請⽅式への変更の要望がないことを確認しており、答弁内容に事実誤認等はありません」とある。
確認すべきは陳情の受付窓口の議会事務局であり、各地域県政総合センターではない。しかも同委員会には環境農政局の幹部職員も出席しているのに、なぜこのような回答ができるのか。もはや、理解不能である。
以上、見て来たように神奈川県の環境農政局という部局は、水源環境保全課長の虚偽答弁や情報の切り取りを認める文書を作成しておきながら、「事実誤認等はありませんでした」などという結論を導き出してしまうのであった。
悲しいけれど、これが神奈川県の森林・林業政策を司る部局の現在地なのである。
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