林野庁は「木材増産」を推進し、木材自給率の向上を図るための施策を展開している。
近年の自給率は増加傾向にある一方、山にある木を全て切り取る「皆伐」後の再造林が進んでいない状況は2019年9月の毎日新聞の記事で報道された通り。
そもそも、木材自給率を上げることで何を目指すのかといえば、国民生活を豊かにするためだと思うのだが、これまでに山村の暮らしは豊かになったのだろうか?
国としては、2025年までに木材自給率を5割程度まで引き上げる方針という。しかし、木材が増産されても山村の人口は減り続け、残されたのは「はげ山」だったなんてことになれば本末転倒と言わざるを得ない。
増え続ける「高性能林業機械」
林野庁の資料によると、直近の日本の木材自給率は2018年の36.6%。過去最低だった2002年の18.8%からほぼ倍増させた計算になる。
ただ、木材自給率は倍増しても、林業従事者の数が増えたわけではない。
木材増産につながった一因として、機械の大型化で作業の効率化を図ったことが挙げられる。
「高性能林業機械」と呼ばれる大型機械の導入は近年増え続け、2002年は2476台だったのが2018年には9659台とほぼ4倍になっている。(下のグラフ参照)
機械の大型化で得られるメリットは言わずもがな、木の伐採や搬出が早くなること。
しかし、当然デメリットもある。
まず、大きな機械を森林内に入れるため、作業道の道幅が必然的に広くなる。斜面を大きく削るのだから山に負担がかかり、土砂災害の誘発につながりかねない。
さらに、高性能林業機械の値段は数千万円になる。機械代をペイし、維持管理費をまかなおうとすれば必然的に多くの木を搬出しなければならなくなるため、山にある木を全て切り出す皆伐が進む。
大規模な皆伐は森林環境を激変させるため、ドイツなどでは禁止されている。最近よく耳にする「SDGs」の観点からも好ましくないだろう。
さらに皆伐後に再造林が進まない現状は冒頭でも触れた。
「木材増産」や「自給率の向上」と言えば聞こえはいいが、これが森林伐採による「環境破壊」になってしまっては困る。
数字には表れないもの
筆者は、小さな機械で山に細い道を入れて木を切り出す「自伐型林業」に挑戦した経験があるが、効率の悪さも感じていた。高性能林業機械があれば半日、あるいは数時間で終わるような仕事を1日かけてしていることもあり、生産性は全く太刀打ちできない。
しかし、こう感じることもある。
【人間が楽(大きな機械で作業)をしようとすれば自然が痛み、逆にしんどい思い(小さな機械で作業)をしようとすれば自然に優しい林業ができるのではないか?】
もちろん、小規模な林業では木材を求める市場のニーズはまかなえないのも事実。何とも悩ましい問題ではある…。
筆が迷走してしまった。
つまり何が言いたいかというと、【2025年までに木材自給率50%】という目標には、【災害に強く自然に優しい林業】という数字には表れない視点が欠けているのではないか、ということ。
50年後、100年後の山の姿を想像しながら仕事をするのが林業だと思う。
目先の数字を追い求め、機械の大型化と効率性を重視する政策で果たして将来の山村は豊かになるのだろうか?
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